みなさんこんにちは!(*^_^*)
音楽の演奏って,《上達するほどに楽しみも増してきますが、同時に悩みも多くなりませんか?》
・音程やアインザッツ(タイミング)が合わない・・。
・和音が上手くハモらない・・。
・テンポやフレージング、指使いやボーイングが楽曲の解釈とあっているか自信がない・・。
・上手くいったときの演奏が再現できない・・。
などの高度な気づきや悩み増えるるのは、よりクオリティーの高い演奏を求めている証拠なんです。
【このサイトでは、皆さんにいつでも確信をもった演奏・合奏を楽しんで頂けるようにお手伝いします。】
さて、ここまでの〈Vol.1〉~〈Vol.3〉 のBlogでは倍音を基にした『共鳴・響き』についてのお話しをしてきました。
今回は自然倍音を利用して作曲された名曲・・について一例を挙げてご一緒に考えてゆきます。
早速はじめましょう。!(^^)!
バッハの工夫・・・無伴奏チェロ組曲の冒頭
これはBachの無伴奏チェロ組曲・プレリュードの冒頭部分です。
この名曲、調性はG dur ですから1小節目はTonic(ソ・シ・レの和音)が開始の主和音であることが分かりますね。
この場合、ソ・シ・レの音(構成音)が順番に下から並んでいればこれを『密集配分』と呼びますが、この場合は1つおきに
ソ・レ・シと逆転した順に並んでいます。これを開離の配置(開離配分)といいます。
この『開離の配置』をよく見てください。
最初の “ソ” の音が根音、次の “レ” の音が第五音、そして “シ” の音が第三音です。
これを前回説明した自然倍音と照らし合わせてみてください。
第12倍音までの中に【根音が4個、第五音が3個、第三音が2個 】・・でしたね。
三和音の各音の強さがこの数と比例します。
つまり、頭の “ソ” の根音が一番強くて、次が “レ”、一番弱いのが “シ” ということになります。
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- ”ソ” の根音は倍音数が多くて強い上に第1拍(強拍)なので、テンポ感を意識したとき自然にアクセントが付きます。
さらにこの “ソ” の音はチェロの開放弦です。それだけに余韻も長く、自然と強拍らしくよく響きます。 - 一方、次の “レ” の音は和音構成上第五音になるので、根音と共鳴するための響きや和音の音程的には大事な音ですが、リズム的には橋渡し役の弱拍として “ソ” と “シ” を繋いでいます。
裏拍・・ですから音量的にも耳につく音ではありません。
ので、その後も合いの手のごとくに何度も繰り返し出てきます。 - トップの “シ” の音は和音的には一番弱い第三音ですが、長調の第三音なので明るく、弱くてもよく目立ちます。
ですが、根音の “ソ” に比べてオクターブ以上も上にあるので、さらにその上の倍音(響き)は薄くなります。 - 4つ目の16分音符にソ・シ・レの和音中に “ラ” の音がありますが、これは刺繡音といって装飾の役割を果たします。
*トリルはヴィブラートをさらに大きく、そして速く振幅させる『揺らし』の効果・・と考えると、
この刺繍音は “シ” の第三音を長く響かせるための役割・・ということが分かります。
まとめてみると、”ソ” は開放弦で楽器自体がよく響き、放っておいても残響は長く残ります。
対して上の “レ” と “シ” は上方に位置する倍音なので、”ソ” の中で響くことによって和音全体の響きのバランスが整います。
そして実際に演奏するときは、4/4拍子を感じて四分音符一拍を16分音符で4つに割るわけですが、ある程度の速さがある曲なので、実際には四分音符2拍で1つの ソ・シ・レ の開離の和音として存在し、上の方の残響が少ない音は刺繍音やターン(音を戻す、行ったり来たり)する事で、ソ・シ・レの和音としてのくくりの中をバランスよく響かせる・・という効果を作っています。
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ところで、この曲を演奏する時、16分音符が4分割だからと正確に4等分して全ての16分音符をイン・テンポ(in Tempo)で均等の長さに弾く人はまずいませんよね。
主音で、開始音で、さらに開放弦の “ソ” の音をタップリ長めに鳴らしてから残りの三つの音でテンポを作る・・・。
というテンポの不均等=揺らしが生まれます。(これをAgogik=アゴーギクと言います。)
誰でも自然にこの感覚を感じ取って、このように揺らして演奏するでしょう?
そしてそれが自然であって理にかなっているのだという事を、倍音系列は証明してくれます。
さらにバッハがこの曲をト長調に選んだのは、G線が開放弦であるが故に豊かな響きを利用できることと(ヴィブラート無しでも)、チェロの移弦がアゴーギクを自然につけやすいような動きになることを計算しているわけです。
本能的にかもしれませんけれど・・・。
『in Tempo』 と 『Agogik』 については、演奏のテンポを左右するとても大事な項目なので後のBlogでタップリと解説します。お楽しみに!
バッハの工夫・・・フルート/パルティータの冒頭
さて、今度はこれも有名なバッハの無伴奏フルートパルティータの冒頭部分です。
この曲はイ短調=a moll ですから最初の小節は、『ラ・ド・ミ』和音の構成音で始まります。
まず特徴的なのは頭が休符で始まるところですね。
これは、バッハがよくやる『テーマを弱拍から始める』・・・書き方です。
ポリフォニーといって多声の対位法的なスタイルの音楽の中では、主旋律(テーマ)を目立たせるためにこういうテーマの書き方をします。
・ポリフォニーについても後のブログで詳しく説明します。
さてその休符で始まるテーマですが、音の構成を見てみましょう。
『ミ・ラ・ド』・・の配置を、休符で始まる主メロディーが作ることで始まっています。
こういう配置を基本三和音の『ラ・ド・ミ』に対して『転回形』といいます。
そして、3番目に出てくるソ#の音はチェロ組曲にも出てきた『刺繍音』です。
さてここでもう一つ、出だしの音について注目したいことがあります。
おわかりでしょうか?
そうです。Vol.3で書いたように、第五音から始まっています。
これは、明るく強い出だしの特徴でしたね。
この曲も例にもれずに音域的にもイクタス=(Ictus)の強い・中音域から上の音域でスタートします。
そして、テーマの音型を一小節内で2回繰り返すと、こんどは落ち着いた(イクタスがあまり強くない)音域で、
エコーのような第2小節めへと変化します。
そして和音の配置の方も、音域の広い転回形からコンパクトに纏まった密集形へ(第2小節目)へとスッと変化しています。
この変化を自然に表現すると、fからpへと変化をつけるのが理にかなっている・・ということになります。
さらに2小節目は、一拍目アタマの” ラ ”と二拍目アタマの” ソ# ”を意識することで和音が変わっていることもわかります。
つまり一小節目はフォルテでドッシリと和音が固定ですが、二小節目は一拍づつの和音の変化で『動き』がついてきます。
こういった自然の流れの中にも音域や楽器の音勢のコントラストがしっかりとつけられて、さらに拍子や和音の変化を利用して、旋律のラインやメリハリを工夫されている・・のが素晴らしいですね!!
・響き、共鳴・そしてBach
音楽にとっての『自然の流れ』・・とは、ここ数回のブログで取り上げてきたカテゴリー『響きと倍音』の事なんですね。
Bachのように『宇宙的な壮大さ』を持ちながらも、かつ『数式』のような緻密な様式、規則正しく美しい旋律ラインを、自然の法則に沿って厳しく、まったく妥協せず完璧に練り上げている作曲家はそうたくさんはいません。
これも次回以降にすこしづつお伝えするつもりなのですが、Bachの「平均律」や「調性」をはじめクラシック音楽の基礎を定着させた功績、オラトリオやフーガの様式美をそのまま後世のオペラやスケルツォの種として、しかも膨大な数の作品を、書式(エクリチュール)というクオリティーを維持し続けて書き残したことは、驚くべき偉大なプロの仕事です。
Bachの音楽、特にフーガを聴いていると、人間が人間のために創作したドラマではなく、
まるで一滴の水滴が波紋を呼びそれが響きを生み、共鳴してどこまでも広がり・・・。
暖かく柔らかい光へと昇華してゆく、大自然の大きな流れを見ているような、
いつまでも眺めていたくなるような不思議な時間の流れ・・・。
***オマケ***
*Bachを弾いていると、いつも道元『正法眼蔵・海印三昧』の中にある以下の ” 釈尊のことば ” を思い出します。
~ 前後して生ずる時々の思念は、先立つ思念が過ぎるのを待って後の思念が生ずるのではない。
前後して生ずる現象は、それぞれが相対立するものではない・・・。~
**次号は響き=倍音を使ったチューニング、それに音程とスケール、音感へとつながるお話しです。
どうぞお楽しみに! (*^_^*)
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